椅子
今回は椅子についてお話したいと思います。
椅子については専門に制作されている作家も多く、とても難しい家具のひとつです。といっても、“腰掛け”と呼ばれるように腰を下ろし、安定すれば木箱や切り株一つでも、それが椅子であることに違いはありません。
しかし、より良い座り心地や、持ち運びやすさ、丈夫さ、見た目を求め、椅子は発達してきたのだと思います。
歴史上、椅子が権力の象徴として使用されていることも多く見られます。エジプトの王ファラオの椅子は足部に獅子の爪の装飾がほどこされ、全体は金箔で覆われ王の能力と富を象徴しています。英語では組織の指導者をチェアマンと呼び、比喩的にも椅子が権力を象徴する物として使用されています。
椅子の多くは、時の権力者によって注文制作され、時代の様式が強く反映された物となっています。これは建築様式の歴史に他ならず、ギリシャ、ロマネスク、バロック、ロココ等、建築物に合わせ、制作されてきました。権力者たちは、先代とは違った様式を求め建築家は意識的に新たな様式を生み出してきました。かつて建築家は、箱としての建物だけでなく、家具や、ドアの取手ひとつまでデザインしていたのです。
「椅子の歴史」として博物館などで示されるのはこのようなもので占められています。
しかし、それとは別に庶民の生活の道具としての椅子もあったのは確かです。それらの椅子は、日常的に使用されるため傷み、保存されている物は少ないのです。そのような椅子は、安価で修理しやすく、身近な材料で制作され、シンプルな構造を持っていたに違いありません。
キグミデザイン&クラフトではそのような“生活の道具”を目指し制作しています。